安静時と収縮時の前鋸筋の超音波画像
論文
Talbott NR et al:Ultrasound imaging of the serratus anterior muscle at rest and during contraction.Clin Physiol Funct Imaging. 2013 May;33(3):192-200.
なぜこの論文を選んだか
前鋸筋の機能低下は臨床で問題となるが、その定量的評価はMMTや肩甲骨アライメント、挙上時の動きから見ることが多い。その中で筋厚の測定ができれば機能を定量化できると思ったから。
概要
○目的
RUSIを使った前鋸筋の臨床的に実現可能な筋厚測定方法の検討およびその信頼性について検討すること
○対象
健常成人20名(男性7名、女性13名:平均年齢25.2歳)
○方法
18MHzのリニアプローブ使用
測定モードはBモード
プローブ位置は下角から腋下中線に水平に移動させ、肋骨上に設置
肩関節120度挙上位
(a)安静、(b)挙上位保持、(c)3Ib負荷
信頼性の測定ICC、SEM、Bland-Altman plot
○結果
<検者内信頼性>
安静時
筋厚=7.2±3.3mm、ICC=0.892、SEM=2.0mm
挙上位保持
筋厚=8.9±3.1mm、ICC=0.951、SEM=0.7mm
挙上負荷
筋厚=9.0±3.1、ICC=0.869-0.97、SEM=0.8mm
<検者間信頼性>
安静時
筋厚=7.4±3.1mm、ICC=0.425、SEM=2.1mm
挙上位保持
筋厚=10.1±2.9mm、ICC=0.526、SEM=2.0mm
挙上負荷
筋厚=10.3±2.9、ICC=0.535、SEM=2.0mm
コメント
再現性が高く、特に収縮時の再現性が高いということは、収縮機能を評価しやすいと思われる。
収縮機能と肩関節機能との関係については不明なため、解釈には注意が必要だが、前鋸筋機能評価の一指標として考えたい。
腕を反復挙上した際の超音波画像診断装置を用いた前鋸筋と僧帽筋の筋厚測定
<論文>
Day JM et al:Thickness of the lower trapezius and serratus anterior using ultrasound imaging during a repeated arm lifting task. Man Ther. 2013 Dec;18(6):588-93.
<なぜこの論文を選んだか>
前鋸筋(以下、SA)や僧帽筋下部線維(以下、LT)のエコー評価に関する論文が少なかったため、どのように描出し評価しているのか知りたかったから。
<概要>
○目的
肩甲骨周囲筋の筋厚測定の信頼性の確立および外部負荷に対する変化について調査すること。
○対象
健常成人14名(男性7名:27±4歳、女性7名:26±4歳)
○方法
安静座位姿勢。
安静時と運動課題中のSA、LTの筋厚を測定
運動課題:負荷なし、1ポンド、2ポンド、3ポンド、4ポンド、25%MVC、33%MVC
信頼性:ICC、Bland-Altman
○結果
いずれの条件においても高い信頼性を認めた。
LT:Bland-Altman=0.006cm、SD=0.007cm:95%一致限界=-0.134~0.146cm
筋厚:安静時<挙上・75%MVC(p<0.01)
SA:Bland-Altman=0.000cm、SD=0.138cm:95%一致限界=-0.28~0.28cm
筋厚:安静時<挙上・75%MVC(p<0.01)
<コメント>
両筋とも非常に信頼性が高いこと、負荷の有無で筋厚に差がないことがわかった。
臨床で肩甲骨周囲筋の機能低下を疑わせる所見がある場合には評価したい。
上腕二頭筋長頭腱の超音波画像診断装置を用いた異常所見の精度
<論文>
Skendzel JG et al:Long head of biceps brachii tendon evaluation: accuracy of preoperative ultrasound.AJR Am J Roentgenol. 2011;197(4):942-8.
<なぜこの論文を選んだか>
上腕二頭筋長頭腱(以下、LHB)の異常所見をどの程度正確に観察評価可能なのか知りたかったから。
<概要>
○目的
LHBの異常を正確に特定する超音波の能力を調査すること。
○対象
肩関節鏡視下手術を受けた66名()
超音波検査から手術までに200日以上空いた症例は除外した。
○方法
LHBの描出は長軸・短軸でそれぞれ撮影した。
全層断裂、部分断裂、非損傷(腱炎、滑膜炎)について超音波所見と術中所見で比較した。
感度、特異度、陽性適中率(PPV)、陰性適中率(NPV)、精度を算出した。
○結果
超音波所見
正常90%(35/39)、全層断裂88%(7/8)、部分断裂27%(3/11)、その他の異常所見22%(2/9)。
全層断裂と他の所見の比較
感度88%、特異度98%、陽性適中率88%、陰性適中率98%、精度97%
部分断裂と他の所見の比較
感度27%、特異度100%、陽性適中率100%、陰性適中率88%、精度88%
<コメント>
正常な所見および完全断裂の所見を評価するのに優れているという結果であった。細かい異常所見を鑑別するには 注意が必要であるが、正常がある程度評価できるなら、診断は難しいが何かしら疼痛や機能障害を引き起こす要因の一つとして考えることはできると思われる。
sho’sめも
・精度:測定者がどれくらい結果が一致するかを示す指標。
超音波画像診断装置を用いた上腕二頭筋長頭腱観察時のランドマーク
<論文>
Saiyun Hou et al:Ultrasonographic Validation of Anatomical Landmarks for Localization of the Tendon of the Long Head of Biceps Brachii. Biomed Res Int. 2017;1-5.
<なぜこの論文を選んだか>
エコーで対象組織の描出の精度を高めるためには解剖学的ランドマークの把握が重要となる。そこで上腕二頭筋長頭腱(LHB)を観察する際の ランドマークについて知りたかったから。
<概要>
○目的
上腕二頭筋長頭腱の局在化のための解剖学的ランドマークを確立し、超音波画像診断装置を用いて局在化を検証すること。
○対象
健常成人25名(24-50歳)
○方法
一重盲検研究、観察研究
解剖学的ランドマーク:上腕骨内側上顆の垂線
烏口突起
結節間溝から内側上顆の垂線までの距離と結節間溝から烏口突起までの距離を測定
測定肢位は中間位と45°外旋位
平均値および95%CIを算出
各計測値と身長、体重、BMIとの相関
○結果
内側上顆(0°/45°):9.3mm(6.8-11.8mm)、21.5mm(18.9-24.1mm)
烏口突起(0°/45°):44.0mm(41.5-46.5mm)、62.2mm(59.2-65.2mm)
両測定値とも身長、体重、BMIとの間に相関は認めなかった
<コメント>
エコーを使って対象を描出する際には、解剖学的ランドマークの存在がその信頼性を高めてくれる。特に烏口突起は描出も容易であるため、LHBの観察の際のポイントにしたい。
sho’sめも
・
癒着性関節包炎に対する超音波ガイド下の腱板疎部拡張術
<論文>
Yoong P et al:Targeted ultrasound-guided hydrodilatation via the rotator interval for adhesive capsulitis. Skeletal Radiol. 2015 May;44(5):703-8.
<なぜこの論文を選んだか>
<概要>
○目的
癒着性関節包炎の治療のため、腱板疎部(RI)に対して超音波ガイド下拡張術の評価および説明をすること。
○対象
包括基準:保存治療に応答がなかった例
腱板の全層断裂がない例
対象22名(男性3名、女性19名)、55歳(32-71歳)
症状の持続期間:4週間から20ヶ月
○方法
局所麻酔剤とステロイド剤をRIに注射した。
VAS、オックスフォード質問紙表
2週間および4ヶ月の追跡調査した。
○結果
4か月時点で、86%(19/22名)が完全(7/22名)、良好な改善(12/22名)を示した。
VAS:8.4mm(初期)、2.1mm(2週間)、1.9mm(4ヶ月)
初期と4ヶ月で有意差あり(p<0.05)
オックスフォード:13.6(初期)、36.5(4ヶ月)
初期と4ヶ月で有意差あり(p<0.05)
※追跡調査4ヶ月時点で注射以外の理学療法を受けた者はいない
<コメント>
RIは炎症所見を示すことが多く、また疼痛を訴えやすい部位の一つである。その部位への即時的な治療効果だけでなく、長期的に効果が持続する点が興味深かった。
sho’sめも
・腱板疎部とは棘上筋と肩甲下筋の間の領域。肩関節周囲炎症例では同部位に炎症所見を認めることが報告されている。
肩関節周囲炎患者における烏口上腕靭帯の超音波評価
<論文>
Homsi C et al:Ultrasound in adhesive capsulitis of the shoulder: is assessment of the coracohumeral ligament a valuable diagnostic tool? Skeletal Radiol. 2006 Sep;35(9):673-8.
<なぜこの論文を選んだか>
先の論文に先立ち、引用されていた論文で、肩関節周囲炎症例における烏口上腕靭帯(以下、CHL)の厚みを検証した論文であったため、読んでおきたかったから。
<概要>
○目的
超音波画像診断装置を用いて癒着性関節包炎患者のCHLの厚みを決定すること。
○対象
306名498肩(年齢47.4歳:15-92歳)
Asym(症状なし):121名
PS(肩痛あり):360名
AS(癒着性関節包炎):17名
○方法
烏口突起を描出し、水平にプローブを設置してCHLを描出した。
可視化できない例、小胸筋から延長して存在するCHL例は除外した。
CHLの厚みを3群間で比較(Kruskal-Wallis検定)
○結果
Asym(症状なし):76.0%(92/121名)、1.34±0.32mm
PS(肩痛あり):63.0%(227/360名)、1.39±0.54mm
AS(癒着性関節包炎):88.2%(15/17名)、3.0±0.85mm
AS>Asym・PS:p<0.0001
<コメント>
エコーで観察しても明らかにCHLが肥厚しているということがわかった。この変化が可動域制限と関連している可能性が非常に高い。また特異的にこの病態を説明するのに適していると考えられた。
sho’sめも
・小胸筋の起始は烏口突起であるが、しばしば解剖学的な変位としてCHLまで線維が延長しているという報告がある。
癒着性肩関節包炎症例における超音波評価
<論文>
Tandon A etal:Sonography in diagnosis of adhesive capsulitis of the shoulder: a case-control study. J Ultrasound. 2017 Aug 21;20(3):227-236.
<なぜこの論文を選んだか>
肩関節周囲炎症例は非常に触れる機会が多い疾患だが、超音波画像診断装置を用いてどのように診断するのか興味があったから。
<概要>
○目的
癒着性関節包炎(AC)の前向き診断のために複数のパラメーターを使用して超音波画像診断装置の有用性を評価すること。
○対象
超音波検査をした90名
AC(癒着性関節包炎):30名
PS(肩に疼痛有する例):30名
Cont(健常者):30名
○方法
静的評価:CHLの厚み、腱板疎部の軟部組織の増加
動的評価:外転・外旋の制限
ACの診断のために単独でまたは組み合わせて各パラメータの精度を算出。
○結果
CHLの厚み
AC:1.2mm
PS: 0.54mm
Cont:0.4mm
感度94.4、特異度93.1
腱板疎部の軟部組織の増加
感度86.2、特異度92.8
外転運動
感度100、特異度6.7
外旋運動
感度96.7、特異度90
<コメント>
臨床ではCHLの柔軟性低下が問題となるケースが多く、さらに外旋制限を有する例が多いことから臨床的な評価の裏付けになる研究であると思われる。
CHLの柔軟性をいかに改善させるかが可動域獲得のポイントになる。
sho’sめも
・ROM曲線:Receiver operating characteristic curbe
検査の感度と特異度の関係を曲線で表したグラフのこと。
横軸に感度、縦軸に特異度を表示し、グラフの左上に角が近いほど感度と特異度が優れた検査であることを示す。
左上の角に最も近い検査の値がカットオフ値となる。